東京高等裁判所 昭和48年(う)894号 判決
被告人 渡久知正
〔抄 録〕
ところで、右各証拠によれば、当時現場には、新里幸男、平良拡和、粟國輝一らが居合わせていたのに、同人らは右粟國務が被告人に対し殴る蹴るの暴行を加えたことをまったく目撃していないか、少なくとも同人が多数回にわたり蹴ったことを目撃していないことは、検察官が指摘するとおりであるけれども、右新里らはいずれも当時相当程度酩酊していたうえ、現場が薄暗かったため、被告人らの行動を良く見ていなかったものと認められるから、同人らが右事実を目撃していないことが、右事実の存在を否定する根拠とはならない。また、検察官は、被告人は、右粟國と掴み合いの喧嘩をしていたもので、同人から一方的に暴力を振るわれていたものではなく、また、本件犯行は、被告人が同人の所為に憤激して行なったもので、防衛意思にもとづくものではない、と主張するけれども、右各証拠によれば、被告人は、右粟國務を刺すまでの間、同人と言い争いをし、また、多少の間、同人の襟首等を掴んで同人と組み合ったものであるとはいえ、同人と組み合ったのは、同人に押し倒されないためにしたものであり、その他には同人に対しまったく抵抗をしていないものであることが認められ、さらに、被告人は、同人を刺した際には、相当程度激昂していたとはいえ、かねてから同人に憎悪の念をもっていた等のために同人から攻撃をうけたのに剰じて同人を刺したものとは認められないから、本件犯行は、被告人が激昂していたため、防衛の程度を超えてしまったものの、右のように自分の身を守るためにしたものと認めるのが相当であり、他に以上に認定した事実を覆すに足りる格別の証拠はない。
以上の事実によれば、本件犯行は、被告人が、被害者からの急迫不正な侵害に対し、自己の身体を防衛する意思でしたもので、それが防衛のためにやむを得ないものとはいえなかったとはいえ、検察官が主張するように、喧嘩に際しての相闘行為から生じたものではないことが明らかであり、したがって、被告人の本件所為が過剰防衛行為であるとして、刑法第三六条第二項を適用した原判決の判断は正当である。
(真野 吉川 竹田)